役員コラム
2025.10.06
点と点をつないで線に
㈱あさひ合同会計 代表取締役社長 藤原 耕司
会社の周りには、美味しいと評判のラーメン店が多い。もっとも、健康診断の数値が気になる中年としては、気軽にラーメンへ箸を伸ばすわけにはいかない。
そんなある日、ふと目にとまった一軒の看板に「ラーメンと定食」と書かれているのに気づいた。以前はラーメン一本だったはずの店に、定食の文字が並んでいる。少しの安堵感に背中を押され、久しぶりに店内へ。注文したのは、ラーメン抜きの生姜焼き定食。シャキシャキのサラダや小鉢が添えられていて健康的だ。
物価高の波に揺れる中、ラーメン一杯千円超えは珍しくなく、ラーメン店の倒産件数は急増している。店主にとってこれは苦肉の策か、それとも新たな挑戦かと、つい経営の観点から勝手に思いを巡らせてしまう。
この9月まで放送されていた朝の連続テレビ小説「あんぱん」には、やなせたかしさんが登場していた。若き日には洋画家を志すも、戦争や生活の荒波に夢を断念。その後、編集者、脚本家、作詞家と様々な仕事をしながら、漫画家としては長らく芽が出なかった。五十代で描いた『アンパンマン』は当初ほとんど売れず、「奇妙」「地味」と評されたが、それでも描き続け、やがて少しずつ読者に受け入れられる。アニメ化を経て国民的ヒーローへと育ったのは、七十代を過ぎてからのことだった。
アップル創業者スティーブ・ジョブズは生前、「明確な未来に向かって点を結ぶことはできない。振り返ったときにはじめて線となり、意味を持つ」と語っている。「直感でも、運命でも、偶然でもよい。大切なのは、点と点がいつかつながると信じること」だと。
人生も仕事も、思い描いた通りの道筋をたどれるわけではない。むしろ、刻々と変わる環境や状況に身を置きながら、試行錯誤や小さな挑戦を積み重ねることこそが、自分や会社のしっかりとした軌跡を形づくるのだろう。
今年も残り三か月。これまで重ねてきた点が、将来振り返ったときに大きな線となっていることを信じ、残る年内の日々も丁寧に過ごしたい。
ちなみに、冒頭のラーメン店を再び訪れたとき、またもや生姜焼き定食を頼みつつ、結局誘惑に負けて小ラーメンを追加してしまった。油断して食べ過ぎ、ベルトの穴がつながらなくならないよう気をつけたい、食欲の秋。