役員コラム

2024.07.04

お金の価値

㈱あさひ合同会計 代表取締役社長 藤原 耕司

 世界的な潮流ではあるが、日本においてもクレジットカードや電子マネー、QRコードなどのキャッシュレス決済の利用が増えている。経済産業省公表の直近データでは、支払方法のうち、キャッシュレス決済の占める割合は約40%で、5年前から約15%増えている。政府目標の80%も遠くない将来に実現するかもしれない。

 統計では、キャッシュレス決済の利用が増え、それに伴い硬貨の流通量は減っているが、一方で、現金を自宅や貸金庫で保管する、いわゆるタンス預金は増え、その額は50兆円を超えると推定されている。
 相続の仕事をしていると、確かに高額のタンス預金をお持ちの方は珍しくない。その背景には、金融不安の時期に銀行等の破産に備えた自己防衛として、また、持続的に物価が下落し、金融機関への預け金利も僅かなデフレが長く続いた、といったことがある。その他、高齢者が銀行で預金引き出しを制限され、さらに、認知症になると口座が自由に使えなくなることを想定し、自身や家族がタンス預金にする、といった事情を聞くことも。

 今月、新紙幣が発行される。新紙幣の肖像画となる3名は、主に明治から大正にかけ活躍した方々。明治には今の通貨単位である、円が導入された。明治30年頃の1円は、物価で比較すると現在の3,800円程度とのこと(参照:日本経済新聞と野村ホールディングス運営サイトman@bowより)。明治以降、戦争やその後の高度成長もあり、単純な振り返りは意味がないが、長い目でみれば貨幣価値は下がると考えるのが自然。
 この頃、しばらく続いたデフレからインフレ基調となり、円安も進み、現金(円)の価値は実質目減りしている。若干ではあるが、金利回復の兆しもみえ、タンス預金も含めた現金がどう動いていくのか、注目したい。

 決済方法は進化するが、お金をどう守るか残すかにあわせ、どう殖やしどう使うか、本質的な課題は不変で、頭を悩ます。
 会社も同じで、資金繰りと相談しながら、必要なものは前倒しで購入、設備投資する、余裕資金を上手に運用、といったことをこれまで以上に考える局面に入っている。紙幣の価値は下がっても、肖像画となった方が取り組んだことや功績は変わらないように、家計や会社の価値を減らさない試行錯誤が求められる。

 なお、近頃はタンス預金目当てに自宅に押し入る物騒な事件もあるが、新紙幣発行に伴い、「従来の紙幣は使えなくなる」「預金封鎖が起こる」といった偽情報がSNSで出回り、新たな詐欺が発生する恐れもあるとのこと。ぜひ注意してください。