役員コラム
2023.12.04
琵琶湖疎水
㈱あさひ合同会計 代表取締役会長 髙木 正男
数年前、ブラタモリで紹介された琵琶湖疎水へ念願かない訪れることができた。東京遷都で急激に衰退した京都を復活させた切り札と言っても過言ではない遺産。舟運利用は昭和26年に終了し、現在は第一(農工業用水)第二(上水道)疎水が利用されている。物流と用水だけでなく発電の恩恵が大きかった事は京都市電の歴史からも知っていたが、やはり現地に赴くと深いものがあった。
当初計画は水車による水力利用で認可されていたものを、アメリカへの調査の結果、着工直前に電気の優位性に気付き懸命の説得で水力発電へ変更することに成功した。これこそがこの事業を後世に残るものとした。視察に行った経緯や計画変更を上申する様を、文章ではなくガイドの方の気持ちのこもった生の声での説明を受けたり、イメージが沸く現場の空気感によって一層伝わってきたように思う。
実は「びわこ疎水船」に乗船したのだが、集合時間は事前レクチャーの時間が含まれており乗船の注意事項だけでなく事業の説明が十分なされて、ただの観光に終わらない知的な感動を味わえるものとなっていた。疎水船で日本遺産の琵琶湖疎水を伝承しようとする事業は、意義あるものと感じた。
残念ながら時間の都合でインクライン(疎水の一部で高低差約36メートル全長582mの世界最長の傾斜鉄道跡)を登ることはできず次の機会に回すことになった。来年には大津港の琵琶湖汽船ミシガン横から疎水船が出航できるように整備されるそうだ。今回は京都蹴上から大津閘門の下船場まで疎水を遡る工程に乗船したが、次は琵琶湖畔から蹴上へ下るルートに乗り、インクラインから南禅寺あたりを桜の季節にでも楽しんでみたい。
当時の土木技術で外国人技師に頼らず日本人の力だけで完成させたこと、明治時代には今では信じられないような偉業が他にも多数あるが、琵琶湖疎水もその一つと言える。「すべては未来の京都のために」という先人の熱い想い、創意工夫、血のにじむ努力が産業発展の礎となり、京都の生活を今も支え続けている。
自分も「未来の人のために」という気持ちを持ち続けて、これからも地域のために、できる仕事をやっていきたいと改めて心に刻んだ旅だった。