役員コラム

2021.08.05

メメント・モリ

㈱あさひ合同会計 取締役 今田 泉美

2年ほど前のことになりますが、とてもお世話になった方の最期に関わらせていただくことがありました。
緩和ケア病棟に入られて1週間ほどたったころ、ご自身のお葬式の準備をそろそろ始めたいからと、病室に呼ばれました。会葬御礼の文章と別途添えるカードの作成を私に担当してほしいとのことでした。
かなり戸惑いましたが、残された時間があまりないことは私にもわかっていましたので、ある意味で母親のような存在の方からの大事な最期の頼まれごととして引き受けました。

彼女は長年にわたり医療と福祉に力を尽くされ、愛と奉仕の精神を生き抜いた方でした。80年余りの彼女の生涯を私なりに会葬御礼の言葉として11行に凝縮し、最も大切にされてきたであろう言葉と、最も彼女らしさが表れている写真を選び、旅立ちのカードにしました。
残念ながら、これらのものをご本人に確認していただく体力はなく、数日後、彼女は旅立たれました。

もし自分が生涯を終えるとしたら、その最期の言葉として、何に力を尽くし、どのような精神で生涯を生き抜いた人生だったとカードに記したいと思うでしょうか。
私は彼女の旅立ちを見送った後もしばらくの間、この問いが脳裏から離れませんでした。
今を生きていくうえで、とても大切な問いではないかと思ったからです。
自分がいつか生涯を終える時を想定し、どういう言葉で締めくくりたいか、大切にしてきた言葉として、ひとつ選ぶとしたらどの言葉にするか。
人は例外なく死を迎えます。大切な問いの答えを心の片隅に置き定めて、一日を生きていくことは「自分を生ききる」ことにつながるのではないでしょうか。
この時の経験は、私にとって貴重なインスピレーションを与えてくれました。

「メメント・モリ」
ラテン語で、「自分がいつか必ず死ぬことを忘れるな」という意味です。
ポジティブに死を意識することで、自分にとって大切なことがより浮き彫りになっていくと思います。

心に定めて、今日一日を大切に生きていきたいものです。