役員コラム

2017.02.01

花束をあなたに

あさひ合同会計 取締役 今田 泉美

 昨年末、ノートルダム清心学園の渡辺和子理事長が亡くなられました。高齢でいらしたので、こういう日がいつかくると思ってはいましたが、突然の訃報に、しばらく茫然自失となりました。

 私たち卒業生は厳しい社会に出ていく前に、渡辺理事長の「人格論」という講義の中で、人として大切なこと、人生を生き抜くための指針についてたくさん教えていただきました。そのときの講義ノートは今でも大切に私の手元に残してあります。

 2年前、幸運にも渡辺理事長と二人きりでお話しをさせていただく機会を頂戴できました。
 当時の私は、先代から引き継いだいくつかの重たい仕事をやっとの思いで片づけることができ、大きな安堵感を感じていました。その一方で、それまでの蓄積した疲労感からか、次に目指す具体的なテーマが見えないまま、自分自身が燃え尽きてしまいそうな不安をどこかに抱えていました。そんな私の心境を察してのことなのかどうかわかりませんが、渡辺理事長がボストンで教育学を学んでいた時のお話をしてくださいました。

 「一人ひとりの内部には、目に見えなくても、その人が成熟に向かって前進する力と傾向性が、必ず存在するということ。その潜在する可能性は、適切な心理的風土を与えられる時、現実性へ一歩踏み出すことができる。」

 これは、心理学者であり牧師でもあったカール・ロジャーズ博士から、渡辺理事長が直接教わった「非指示的支援」というカウンセリング理論です。この「適切な心理的風土」というのは、その人のありのままを受け入れる「許容の風土」です。これは「人格論」の講義の中でも教えていただいたことがあります。

 私たちは人との関係や組織をまとめていく上で、自分の価値判断で「あなたは間違っている」という批判をしたり、また、「こうすべき」を押しつけたりしがちになります。

 そういった批判や指示をするのではなく、いろんな個性や価値観を受け入れ、お互いに許容し、認め合う風土が、一人ひとりの秘めた可能性を開花させていくためにとても大切なことなのですよ、と改めて教えてくださいました。
 相手の可能性への信頼と尊敬、傾聴の姿勢は、その後数十年にわたり教育者として多くの学生と接してこられた渡辺理事長にとって、得難い教訓となったそうです。
 あの時の渡辺理事長は、「許容の風土作りの一助を担っていくことが、これからのあなたのテーマでは?」と、私に指針を示してくださったのかもしれません。
 私はそう受け止めています。

 「一生、自分と闘うのよ。」と、渡辺理事長は私を送り出してくださいました。あの時の満面の笑顔を忘れることはないでしょう。教えていただいたことの実践者となれるよう、自分と闘う日々をこれからも積み重ねてまいります。ありがとうございました。