役員コラム

2015.07.01

お 帰 り な さ い

㈱あさひ合同会計 取締役 今田 泉美

 今年の春、ある方から、母校のノートルダム清心女子大学で講師助手をする機会を与えていただいた。その講義の初日、運よく渡辺理事長にご挨拶させていただくことができた。

 「お帰りなさい。」
 開口一番、渡辺理事長はこう言って出迎えて下さった。もちろん、一対一でお会いしたことなど全くなく、突然の訪問にも関わらず、だ。
 かつて、すらりとしていた渡辺理事長はお年を召されて思いのほか小さくなられ、懐かしいお顔が私の胸のあたりにあった。私はお目にかかれたうれしさと、緊張と、小さくなられた愛おしさが入り混じり、胸がいっぱいになった。

 小学校3年生ぐらいではなかっただろうか。倉敷美観地区へ遊びに連れて行ってもらった時のこと。揺れる柳並木の下で、印象的な出逢いがあった。
 「ノートルダムの学長様よ。」友達のお母さんが私たちにそう教えてくれた。修道服という呼び名も知らない頃のこと。頭から長いベールをかぶり、長いドレスで颯爽と歩かれている姿はハッとするくらい美しかった。私たちは息を止めるようにして、しばらく見とれていた。
 これが、尊敬する渡辺理事長に初めて会った時の記憶だ。

 大学の入学式の日、渡辺理事長から『置かれたところで咲きなさい』と教えていただいた。あれからずっと、この言葉を信じて、下手だけれど必死で実践をしてきたという自負がある。正直、投げ出してしまいたいことは何度もあったが、卒業後30年近くの年月を経て、今の私には確信をもって言えることがある。

 問題を肯定的にとらえるか、否定的にとらえるか、意味を見出していくのは自分次第。置かれたところで自分に何ができるのかを考え、自ら行動し、肯定的な意味づけをしていくかどうか。それができれば、目の前は拓かれていく。恵まれた環境や能力が必要なのではなく、結局のところ、それを受け止める自分の意識の問題だということ。


 「渡辺理事長の言葉を信じて、ここまで頑張ってきて本当に良かった。」
  このことを、ご本人に直接お伝えできる日がくるとは思ってもいなかった。
  私にとって、これは奇跡だろう。

 今後、私は若い人たちへのキャリア支援をしていきたい。ここで教えていただいた大切なことを、自分の経験を踏まえ、自分の言葉で伝えていきたい。その目標のために、スキル習得の実践の場として、母校での講師助手という機会を思いがけずいただけた。そうお伝えしたら、渡辺理事長はとても喜んで下さった。
 今でも、咲けない日がしょっちゅうあると申し上げた私に、「一生よ。一生、そういう自分と闘うの。」と、手をとり満面の笑顔でおっしゃった。
 あの笑顔を私は一生忘れない。