役員コラム
2015.12.01
えびすがお
㈱あさひ合同会計 取締役 今田 泉美
先月、母を連れて出雲大社へ旅行に出かけた。母、姉夫婦、姪3人、姪の子2人、そして私の9人。昨年、母は喜寿の年だったのだけど、バツイチとなった姪が幼い子供2人を連れて帰ってきたこともあり、1年遅れのお祝い旅行となった。9人一緒に、1台でドライブが楽しめるようにと大きなワゴン車をレンタルした。
出雲大社に着き、みんなで参道を歩きはじめた。はしゃいで、ジグザグに走る2人のチビたちを前方に見ながら、私は母に合わせて歩くことにした。
「暖かい日だから、気持ちいいね」といいながら、一歩ずつゆっくり、ゆっくりと歩く母。歩調を合わせているつもりでも、つい、母が遅れがちになる。
その日、私たちは玉造温泉へ宿泊した。温泉から上がった後、客室でくつろいでいる母の両足首に珍しいものを見つけた。白い組み紐のようなものが両足首に巻いてある。訊くと、足にケガがないように願掛けをしているお守り紐なのだという。ケガをして家族に迷惑をかけることのないようにと気にしてのことだろう。「親友がまた一人旅立って淋しい」そのとき、ぽつりと私にこぼした。
一緒に暮らしていない私は、母のことを何も知らないんだなと思う。
母は自宅で、13年間にわたり祖母の介護をした。今のような介護支援もない時代だったので、ずっと自宅で世話をしたのち見送った。その翌年には思いもよらず、父をがんで見送ることになった。若い頃はナースに憧れていたという母は、こんなときほど気丈で、祖母の介護も父の看護も幸せそうにした。笑顔の少なくなった老人や病人を、冗談を言って笑わせながら、手際よくやるのが上手かった。
そんな母が、いつしか、こんなにゆっくりでないと何ごともできなくなっていた。
もちろん嬉しい発見もあった。
車中、5歳の子が「しりとり」をしようというので、母を含めて「しりとり」をした。曾孫と曾祖母のおかしな掛け合いで私たちを何度も爆笑させてくれる。「しりとり」に答えるテンポは私たちと変わらないし、少し耳が遠くなったのを逆手にとって、5歳の子を笑わせるところなど、むしろ誰よりも上手くて驚いた。
「人間、笑っていないとね。」
苦しい時ほど、笑顔で乗り切る強さを母は持っている。若い時にはできていたことが、何ごともできなくなったとしてもいいから、いつまでも、こうやって笑っていてほしい、そう思った。
3人の孫が一年遅れで喜寿を祝って「紫のちゃんちゃんこ」を母に着せてくれた。思いがけないプレゼントに母の顔がはじけた。
私には、その丸い顔がえびす様のように見えた。