相続・事業承継あれこれ

2020.08.07

会社オーナーに現物資産で退職金を支給する際のポイント

会社オーナーへの退職金は通常、金銭支給ですが、資金繰りや相続対策との兼ね合いで、その全額又は一部を現物の資産(不動産・保険・車など)とすることがあります。
退職金を受けとるオーナーの所得税・住民税負担は、金銭で受けとる場合と同じですが、事前に確認が必要な実務上のポイントがいくつかあります。

【1】事前に整理すること
①現物資産の時価を確認する
現物資産の時価を金銭に換算します。
例えば退職金支給総額を6,000万円とし、その一部に土地を充てたい場合、仮に、土地の時価※が5,000万円であれば、土地(5,000万円)と現金(1,000万円)を支給します。
※土地の時価には、固定資産評価額や路線価といった指標もありますが、退職金支給の際はそれらの指標ではなく、実際の取引時価(公示価格に近い金額)を用います。
実務上、取引時価は検索サイトでの確認ほか、不動産業者や不動産鑑定士へ査定を依頼することが一般的です。

②現物資産の帳簿価額と時価との差額は譲渡損益として計上される
上記①の例で、会社における土地の帳簿価額が8,000万円だった場合、
時価5,000万円-帳簿価額8,000万円=△3,000万円の損失が(会社側で)計上されます。
今回の例では、結果として会社の節税にもなりますが、帳簿価額より時価のほうが高く、譲渡益が計上される場合には、会社側で法人税等の負担が発生するため、注意が必要です。

③源泉税の納付が可能かどうか確認する
退職金については一定の控除がありますが、控除額を超える場合には、通常の役員報酬と同様、源泉徴収の対象となります。退職金が現物資産のみである場合、納付に困るということがあります。

【2】支給する現物資産が不動産である場合に気をつけること
①不動産取得税と登録免許税の負担(個人)
退職金として不動産を取得した会社オーナーに、不動産取得税と登録免許税がかかります。

②消費税の取り扱い(会社)
株主総会や取締役会で退職金の支給を決議する際、現物資産による支給であること、及び現物資産の種類・金額を明示しておけば、消費税の課税対象取引となりません。
それらを明示せず、例えば、退職金支給とその支給額だけを決議した場合、税務上は、代物弁済※とされ、消費税の計算に影響が出ます(土地は非課税売上、建物は課税売上)。
※「元々」金銭で支給する予定だったが、「事後」現物資産で弁済したとする取引