相続・事業承継あれこれ

2019.05.07

自社株式が分散している場合の会社オーナーの議決権確保~民事信託活用~

前月号に引き続き民事信託の活用を紹介します。今回のテーマはオーナーの議決権確保です。
社歴が長くなるにつれ、自社株式が分散するケースは多く、結果として経営者の議決権が十分でないといった場合があります。そうした課題解決に民事信託が活用できます。

1.会社オーナーの悩み(事例)
     会社オーナーの悩み(事例)  
2.民事信託の活用
上記事例の課題を解決するため、民事信託を活用します。
“〇〇信託銀行”で手続きをすることはなく、“当事者間の合意で”成り立つ仕組みです。
例えば下記のような内容を親族間で取り決めることができます(信託契約書の取り交わし)。

 ①株主総会における議決権は会社オーナーが行使する(親族がオーナーに議決権を委託する)
②配当はこれまで通り親族が受け取る

※信託契約書での立場 ①オーナー:受託者(指図権者) ②親族:委託者兼受益者
実際には専門家が関与した上で公証役場において手続きを行うことが一般的です。

3.民事信託を活用する場合の主なメリット・デメリット
(メリット)
  ・株式を買い取るわけではないので、資金負担がない
  ・親族全員と合意する必要はなく、特定の親族のみと契約を交わすことができる
  ・議決権を確保する他の方法(種類株式等)では株主総会での決議等が必要になるが、民事信託は当
         事者間での合意で成り立つ仕組みのため、迅速に実行できる
(デメリット)
  ・議決権は確保できるが、(将来)株式買い取り要求を受ける場合がある
  ・配当分配の手続きや信託計算書の作成等、毎年事務作業が発生する

4.その他 
議決権を確保するその他の対策として、種類株式の活用や属人株式(定款変更)の活用があります。いずれの方法にもメリット・デメリットがあり、会社の状況や重視する点により、選択肢は変わってきます。相続・事業承継対策全般に共通することですが、いずれかの方法ありきではなく、複数の方法を比較検討することが大切です。